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青森地方裁判所 昭和61年(わ)44号 判決

本店の所在地

青森県十和田市稲生町一四番三二号

株式会社北大

右代表者代表取締役

秋元宗杰こと李荘杰

国籍

韓国

住居

青森県北津軽郡中里町大字中里字亀山四五二番地

パチンコ店従業員(元右会社代表取締役)

秋元繁男こと李旺杰

一九三八年一〇月二二日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官松浦由記夫出席のうえ審理して、次のとおり判決する。

主文

被告会社株式会社北大を罰金六〇〇〇万円に、被告人李旺杰を懲役二年に処する。

被告人李旺杰に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社株式会社北大は、青森県十和田市稲生町一四番三二号に本店を置き、遊技場(パチンコ業)等を営むもの、被告人秋元繁男こと李旺杰は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人李旺杰は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上・棚卸商品の一部除外をするなどの方法により所得を秘匿し、

第一  昭和五六年四月一日から同五七年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億三五九四万〇三〇八円で、これに対する法人税額が九七一四万八三〇〇円であるにもかかわらず、同年五月三一日、同市西三番町一番三四号所在の十和田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三五〇五万六五六七円でこれに対する法人税額が一二八五万四八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規法人税額と右申告額と右申告額との差額八四二九万三五〇〇円を免れ、

第二  同五七年四月一日から同五八年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億五四四九万八〇〇五円で、これに対する法人税額が一億四四九二万二八〇〇円であるにもかかわらず、同年五月三一日、前記十和田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億五六〇八万六三九五円でこれに対する法人税額が一億〇三六〇万〇一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告額との差額四一三二万二七〇〇円を免れ、

第三  同五八年四月一日から同五九年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六億二五八三万三四〇〇円で、これに対する法人税額が二億五七八八万八三〇〇円であるにもかかわらず、同年五月三一日、前記十和田税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三億四一三二万八八五三円でこれに対する法人税額が一億三八四一万三三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告額との差額一億一九四七万五〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告会社の代表者李荘杰及び被告人李旺杰の当公判廷における各供述

一  被告人李旺杰の検察官に対する各供述調書(四通)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(四三通)

一  李荘杰の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(五通)

一  崔笑子の検察官に対する各供述調書(二通)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(一〇通)

一  朴海子の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(四通)

一  木村静逸の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(二通)

一  田中清二の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書

一  鎌田善実の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(三通)

一  藤田昭三、藤田武及び田村秋穂の検察官に対する各供述調書

一  起田恵美子(二通)、三上寿人、葛西昇、今勝一(二通)、佐藤理津子(三通)、李広子(三通)、斎藤俊文、長根武志、朴済勲(二通)、李永杰(三通)、笹森厳、鈴木りつ、佐藤隆夫、神幸治、荒木文則、秋田谷直子、西村健三、今村道子、松田学及び鄭圭泰の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  神幸治他四名、木村静逸、田中清二、渋谷謙造(三通)、藤田昭三(二通)、吹田正弘、藤田武、明内永作及び田中市三郎各作成の各上申書

一  国税査察官作成の各写真撮影報告書(九通)

一  大蔵事務官作成の銀行調査書、簿外現金調査書、簿外預金調査書、仮払金調査書、商品等調査書、未払金調査書、長期借入金調査書、未納事業税調査書、その他所得調査書、当期利益金調査書、社長勘定調査書、青色申告の承認の取消通知書謄本、修正申告書謄本(三通)、領収済通知書(修正分)謄本(三通)、差押てん末書(四通)及び領置てん末書

一  藤田武作成の任意提出書

一  検察事務官作成の領置調書

一  登記簿謄本

一  株式会社設立登記申請書写し

一  押収してある総勘定元帳一一綴(昭和六一年押第一一号の1ないし4、10ないし13、16ないし18)、元帳二綴(同押号の14、15)、棚卸表七綴(同押号の5ないし8、20ないし22)、手帳二冊(同押号の9、29)、ノート二冊(同押号の19、23)、在庫台帳二冊(同押号の24)及び法人税確定申告書四綴(同押号の25ないし28)

(法令の適用)

被告人李旺杰の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。そして、被告人李旺杰の判示各所為はいずれも被告会社株式会社北大の業務に関してなされたものであるから、被告会社に対しては法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑が科されるべきところ、いずれも情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金六〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、青森県内に当時九つのパチンコ店を有する被告会社の経営者である被告人李旺杰が、被告会社に関し、三事業年度にわたり、総額二億四五〇〇万円余の法人税を免れた事案である。ほ脱額は右のとおり巨額であるうえ、犯行の動機も裏金を捻出して業者間の競争に備えようとしたものであって格別斟酌すべきものとはいえない。脱税事犯は国民全体の不利益において自己のみ利得するという反社会的、反道徳的な犯罪であり、国民の健全な納税意欲を著しく損うものであって社会に及ぼす悪影響も著しく、同被告人の刑事責任は重大であるといわなければならない。

しかしながら、本件にあって、ほ脱率は平均四九・〇二パーセントであって極端に高いというわけではないこと、ほ脱の手段、方法も主として営業店の売上金の一部を扱き取り、これを自宅に保管したうえ金融機関に預金していたというものであってそれほど複雑巧妙なものではないこと、同被告人は、自己の責任を痛感し深く反省しており、事実関係についても素直にこれを認め、更に本件違反に伴う修正本税、延滞税、加重算税等を完納していること、本件発覚を契機に被告会社の代表者の地位を退き、公的な役職も辞任していること、前料、前歴もないこと等の事情が認められ、これらの事情に徴するときは、同被告人に対してはその懲役刑の執行を猶予するのが相当である。

なお、被告会社に対する罰金の額については、本件の規模、態様、被告会社の業績等の事情に鑑み、主文掲記程度の額はやむを得ないものと考える。

よって、主文のとおり判決する。

昭和六一年九月二四日

(裁判長裁判官 栗原宏武 裁判官 田中亮一 裁判官 荒木弘之)

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